救急医療の現場で看護師として日々さまざまな命と向き合ってきた鈴木さん。
現在は、病院の外で「働く人の健康」を支える仕事に携わっています。
「病気になる前に、もっと早く気づけていたら…」
そう感じてきた手術室での日々から、産業保健の世界へ。
子育てと仕事の両立に悩みつつも「自分の人生もちゃんと歩みたい」と語る鈴木さんに、お話を伺いました。

救急ヘリが行き交う現場の手術室で学んだ、チーム医療のおもしろさ
新卒で配属されたのは、救急も受け入れる総合病院の手術室でした。
「初めての勤務先が、いきなり手術室だったんです。ヘリで救急の患者さんが運ばれてきて、緊急手術になることも多かったです。先生の『メス』という声に合わせて器具を手渡し、臓器の状態を見ながら次に必要なものを先回りして準備したり…まさにドラマで見るような手術室の看護師でした」
医師・看護師・技師など、多職種が連携しながら一つの手術をやり遂げていく。
鈴木さんは「チーム医療のおもしろさ」を感じていたといいます。
「もっと早く気づけたはずなのに」──病院で見続けた“手遅れ”の悔しさ
一方で、手術室だからこそ見えてしまう現実もありました。
「生活習慣が積み重なって、がんになってしまう方って少なくないんです。お酒やタバコの量が多くて、食生活も乱れていて…という生活を何十年も続けた結果、消化器系のがんになってしまったり…。開腹してみると全身に転移していて、もう手術すらできない、というケースもありました」
カルテを読み込むと、「血便が出ていたけれど、受診するまで何年も我慢していた」など、その人が手術に至るまでの過程も見えるとのこと。
「もう少し早く病院に来てくれていたら…と、やるせない気持ちになることも多くて。もっと身近なところに医療従事者がいて、『一回病院に行こうか』って声をかけられていたら、結果は違ったかもしれないなって、ずっと思っていたんです」
その後、クリニックでの勤務も経験。
しかし「病院に来る時点で、すでに“何かが起きた後”」という構図は変わりませんでした。
「病気になる“もっと手前で“関われる場所があったら──。その思いが、ずっと自分の中に残っていました」

「看護の世界だけがすべてじゃない」──ホスキュアへの転身
看護師を目指したきっかけは、同じ職業に就くお母さんの存在でした。
「母から『看護師は(仕事に)困らないよ』と言われて。最初は“とりあえずやってみるか”くらいの気持ちでした。実習を通して、看護の仕事の楽しさを知って、“まずはこの道でやってみよう”と思っていた感じです」
病院で働く中で感じていたのは、「自分は看護の世界しか知らない」ということ。
「ビジネスメールを書くこともないし、人との接し方も“病院の中の常識”で完結していて…一般企業の“社会人としての常識”を、私は全然知らないな…と感じていました」
そんな中、同じ病院で働いていた同僚の丸山さん(現ホスキュア代表取締役)が起業。
「病気になる前に関わりたい」という自分の思いと、ホスキュアの事業内容が重なったことが、転職を決める大きなきっかけになりました。
「看護の世界だけがすべてじゃないはず。他の世界も見てみたい。丸山の活動をそばで見ていて、少しでも力になれたら…と思ったんです」

産業保健の現場では、あくまでも“中立”な立場で
現在は、企業向けの産業保健領域を中心にお仕事をしています。
「今は、健康経営を促進するための産業保健の営業をメインで活動しています。ホスキュアには『企業の保健室』『医療職の人材紹介』『保険外自費看護サービス』の3つの柱がありますが、私は特に、会社の中で働く人の健康を支える産業保健師としての活動も行っています」
企業に入り、従業員の悩みを聞く「保健師面談」も大事な役割。相手は、18歳の新卒社員のこともあれば、家庭や介護の悩みを抱えるベテラン社員のことも。そこで意識しているのは、「従業員の味方“だけ”にも、会社の味方“だけ”にもならない」というスタンス。
相談に来た従業員の方は、白衣を着た私がお話を聞くと“専門職が自分の味方をしてくれている”と受け取りやすいんです。その結果、『自分は正しい、会社が悪い』という考えに偏ってしまうことも…。なので、私は過度に共感しすぎないように意識しています」
大切にしているのは、あくまで“中立”であること。
「『そう感じているんですね』と気持ちを受け止めつつ、吐き出してもらうこと、その中で自分の気持ちを整理できるように促すことを大切にしています。従業員の方と上司の方とのやり取りが必要な場合は、少しだけ橋渡しをして、最終的には本人が自分の力で職場での関係を築いていけるようにサポートする、というイメージですね」
「治療しながら」「介護しながら」働く人を支える「両立支援コーディネーター」という役割
鈴木さんが最近取得したのが、「両立支援コーディネーター」という資格です。
「がんの治療をしながら働く人や、親の介護をしながら働く人が、これから確実に増えていくと言われています。でも、病院側は「働き方」までは具体的にアドバイスしづらい現実もあって、『無理せず休んでくださいね』としか言えない場面も多いんです」
抗がん剤の副作用で手のしびれがある人が、今の仕事を続けるにはどうすればいいのか。
介護で夜間の睡眠時間が削られている人が、仕事とのバランスをどう整えればいいのか。
「医療的に予測されることと、会社側の事情の両方を踏まえたうえで、『こういう配慮ができると、お互いにとっていいですよね』と橋渡しできるのが、両立支援コーディネーターの役割です」
介護や治療の支援制度はあっても、「そもそもそんな制度があることを知らない」人も多いといいます。
「自分だけで全部抱え込むのではなく、『もっと頼れるものがあるよ』って伝えたい。まだ資格を取ったばかりですが、これからもっと活かしていきたい領域ですね」

「母親としての人生」と「自分の人生」と──揺れながらも働き続ける
仕事の話題の合間には、5歳と1歳のお子さんの話題も。
短時間勤務で働きながら、子育てとの両立に日々向き合っています。
「入社したとき、下の子はまだ1歳になっていなくて。丸山が、私が無理なく働けるように体制を整えてくれたおかげで、今の働き方が成り立っています」
とはいえ、両立は決して簡単ではありません。
「仕事のことを家に持ち込まないようにしていても、『あのメール、ちゃんと返したっけ?』『さっきの言い回し、違ったかな』と、つい考えてしまって。子どもに話しかけられても、頭の中は仕事だったりして、“切り替えの難しさ”は常に感じています」
それでも、「母親として」だけでなく、「自分の人生」も大切にしたいと語ります。
「少し前までは、『母親として頑張っていればいい』と思っていた時期もありました。でも、いつか子どもは巣立っていきますよね。そのとき、自分の人生もちゃんと歩める自分でいたいな、と思うようになって」
「子どもたちの母親は自分しかいないから、そこは全力でやる。でも同時に、“自分の人生を歩んでいる背中”も見せたい。正直、両立できているかは自信がないですけど…悩みながら、模索しながらやっています」
そんな中でも「これだけは守る」と決めているのが、子どもたちの生活リズム。
「3食ちゃんと食べて、早寝早起きできていれば100点かなって。夜8時には寝かせて、そのあと自分の時間を少しだけつくるようにしています。韓国ドラマを観たり、夫とゆっくり話したり…そんな時間も、今の自分には大事ですね」

これからの1年で、「自分なりの土台」をつくりたい
最後に、これからのことを聞いてみました。
「まだまだ営業も手探りで、子育ても含めて“両立できている”とは言い切れない状態なのですが…
子どもが小学校に上がるまでのこの1年で、今の仕事をもう少し自分の中に落とし込んで、“自分なりの土台”をつくりたいと思っています」
「自分で開拓したお客様をいくつかしっかり担当して、責任を持って関わり続ける。そのためにも、前向きに行動していくしかないな、と思っています」
病院の中で命と向き合ってきた看護師時代。そして今は、病気になる“前”の段階で、働く人と企業を支える産業保健の仕事へ。
「看護の世界だけがすべてじゃない」と一歩外に出た鈴木さんの挑戦は、これからも続いていきます。
編集後記
取材の最後、「お休みの日はどのように過ごしているんですか?」と何気なく聞いたとき、鈴木さんは少し照れたように笑いながら教えてくれました。
土日は基本的に家族4人で過ごす時間。とくに日曜日は、なるべくいろんな“体験”を子どもにさせたいと、毎週どこかへ出かけているそうです。つい先日訪れたのは、千歳のキリンビール工場。
大人が楽しい場所……というイメージを持ちますが、子どもたちも興味津々で工場見学に参加し、意外なくらい楽しんでいたのだとか。
「何に興味を持つか、まだ分からないので。なるべくいろいろな世界を見てほしいんです」
そう話す鈴木さんの表情は、産業保健の現場で働く人を支える顔とはまた違う、ひとりのお母さんの柔らかい顔でした。
新しいキャリアに挑戦する一方で、母としての時間も大切にしたい──。
その両方を抱えつつもまっすぐに生きる鈴木さんの姿はA.Tにとっても背筋が伸びるような、やさしい刺激をくれました。
終始あたたかい雰囲気での取材となり、楽しいひとときでした。ありがとうございました!これからもずっと応援しています!
取材・文・写真:michimichi編集部員A.T
プロフィール
株式会社ホスキュア
医療職に特化した人材紹介やキャリア相談を行うほか、一般企業、組合、団体、地域等に健康管理の支援も手がける会社。現場での実務経験を踏まえたサポートを行っている。
ライター情報
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